コラム:週刊モンモントーク
[35] 「神のみぞ知るカニの味噌汁」を批判的に考察する
1.完璧な「蟹
の味噌汁」は存在するか
蟹の味噌汁は美味すぎる、誰もが完璧な「蟹の味噌汁」を思い描き所望する。だから人は、その存在を信じ、完璧なレシピを求め続けてきた。歴史
上、幾多の異人、いや、偉人がそのレシピの天啓を受け、レシピ通りに、時には厨房や割烹着にも凝り、称え奉る歌をも捧げ、完璧なそれを作ろう
としてきた、が、未だ、その高みを極めるには至らない。
そもそもどの「蟹」を使うのか、タラバガ ニかズワイガニか。タラバがヤドカリ科であるという真実を、そのプッリプリの肉厚が忘れられず決して受け入れない一派が今だ存在し、ズワイで は、その本来のうま味を味わうのは、やはり茹でガニにレモンで、味噌汁にするなら伝統的なワタリガニに戻れ、という叫びも根強い。
完璧な「蟹の味噌汁」のレシピは存在する のか、そして、それを元に現実に完璧に作り上げられるのか、人類が味噌を知り、汁にするという知恵を得て以来の預言、それは、世界の終末に顕 現する「神のみぞ知る蟹の味噌汁」。
2.完璧な「蟹
の味噌汁」の存在を証明する
しかし、56億7千万年後か、必ず到来するがいつかは?、という最後の審判(晩餐?)かは知らないが、それ本当?、という思いは消えない。に
わかに信じがたい、という懐疑の声に反駁すべく、その存在を証明するって蛮勇が現れる。
まず、完璧でない人が完璧な「蟹の味噌 汁」をイメージできるのは、それがどこかに存在するから(存在論的証明)。次に、完璧な「蟹の味噌汁」の原因から結果を極めれば究極のそれに 行き当たる(創造論的証明)。そして、この世界がここまで精巧に正確にできているのだから、完璧な「蟹の味噌汁」の存在も否定できない(自然 神学的証明)。
さらに、蟹の味噌汁を食べると心が豊かに なるのは、完璧な「蟹の味噌汁」の存在のおかげ(道徳論的証明)。また、蟹の味噌汁が各地で広く愛されているのは、完璧な「蟹の味噌汁」が遍 在してるから(理神論的証明)。最後に、存在しないよりしたほうがおいしくて得だから(確率論的証明)。以上、こんなんでいいのかな あ...。
3.
完璧な「蟹の味噌汁」は妄想か
ここまで来ると、なんじゃそりゃ、完璧な「蟹の味噌汁」は死んだ!、という断罪まですぐ。それを覆すには奇跡を起こすしかない、かつて、かの
偉人が完璧に作り上げたという完璧な「蟹の味噌汁」、「神のみぞ知る蟹の味噌汁」を人々の眼前に有らしめるしかない、が、ムリ。現実に存在す
るものの概念化は常に可能だが、その逆は、常には、ムリ。
が、人の脳は、それが無理であることに納 得しない、「理性」誕生から20万年たっても、概念化が 脳内刺激の連鎖であることに慣れず、外界からの刺激と同様な処理が脳で行われる。概念化できるものは存在するはずだ、べきだ、と。そして遂 に、幻聴を聞き、幻影を見る、想像、空想、妄想の完成。それは、妄想といえば妄想、しかし...。
複数の人々が、その同じ「想念」を共有す
るとき、奇跡が起こる。まったく新しい世界観の下、違って見える風景、景色、新たな「真
理」を巡る生の闘争が始まる、一種のパラダイム転換、イノベーショ
ンとも言える、奇跡が起きる。
4.完璧な「蟹
の味噌汁」の可能性を考える
そもそも完璧って何?、天衣無縫って言うけれど、縫い目のない衣服は作れない、
が、その脳内概念−想 像・空想・妄想−を現実化したいという衝動が本能が人にはある、それが文明をもたらし、今も理想を求め続ける。そして、その理想 と現実のギャップが問題を顕在化させる、それが、人だけが「問題」を持 つカラクリ。が、同時にその「問題」を解決しようと、その可能性をも探る、人だけが、完璧に理想に近づくために。
科学技術、芸術やスポーツも同じ、可能性 に賭ける、その姿に美を感じる、その先に完璧を理想を見るから。そう、完璧な「蟹の味噌汁」も、その可能性を信じ求め追求するもの、それが人 が生きるってこと、自由の正体、再び。
5.
初めての蟹の味噌汁は、遠い過去のあの時の、あの人とあのヴィエスロで味わった、あのアルバムのあのナンバーを背景に。あの暖炉の紅炎とあの
馴鹿の剥製が、時の流れに色褪せるセピア色の記憶の彼方から蘇る、巡り合いの偶然、そして、別れの必然、幸も不幸もすべてを絡め、時は刻む。
改めて問う、自由意志はあるのか、否か?。
それは可能性の問題、無数の可能性が、す べての蓋然性を飲み込んで、たったひとつの現実を具現化させる、その瞬間、まさに奇跡、奇跡の瞬間の連続、それが生きるってこと。であるとす れば、すべての瞬間は、それしかあり得なかったという完璧な瞬間、自分だけの奇跡の物語、世界はやはり、美しい!?。
思えば、あの時の蟹の味噌汁も完璧に美し く、存在すべてが光り輝いていた。もう二度と取り戻せない、あの完璧な「蟹の味噌汁」、あの人と舌鼓を打った、失われてしまったあ の時の「神のみぞ知る蟹の味噌汁」。
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