コラム:週刊モンモントーク
[32] 「どこから来てどこへ」
1.「D'où venons-nous ? (我々はどこから来たのか)」
モンモン: せんせー、最近、何か思うんだけど、ホントは、問題意識なんて持たないほうが楽じゃないかなって...。
先生: ...どういうことかな?。
モンモン: 何て言うか、色んなこと考えても考えなくても、結局、同じかなって、毎日の生活っていうか、行き着く先っていうか、結局結論は決まってる、みたいな、そしたら、何か難しいこと考えたりしないで、普通にしてたほうが、精神的にも楽かなって、他に、楽しいこともあるし...?。
先生: ...普通にするって、どういうことかな?。
モンモン: フツーはフツウ...でしょ。...ほら、ガッコ行って勉強したり、成績は悪くないよ、一応がんばってるから、で、コーラスやってるから、その活動に参加したり、みんな熱心だしね...休みの日は家族で出かけたり...みたいな。
先生: なるほど、しかし、その普通の生活って、忽然と自然に生まれたのかな?、誰も何も考えもしないのに...。
モンモン: えっ?、誰も何も考えないのに...って、...どゆこと?、...それは、社会がそうなってるからで、...ううん、違う!、...社会を作ってきたんだ、人々が、そんなふうに、時には戦争までして...。
先生: そう、社会の形って人が考えた結果なんだ、無意識的にせよ、意識的にせよ。特に都市は脳の具現化だ、という考えもある。いずれにせよ、問題意識を持つとは、意識的に社会の形成に関わろうってことなんだ。過去からの遺産を、連綿とした積み重ねを引き継いだ上でな。
モンモン: 価値観の、文化の形成?、人は一人では生きられないって。文化、価値観を背負ってるってこと?、それは、自分につながる過去の人達が作り上げてきたもの、考えながら悩みながら、無意識でも意識的にも、ってこと?。
先生:そう、文化って後天的なものだ、だから、人だけが歴史を持つ、歴史は文化の変遷でもある。そして、その中で、否応なく個人は生きてきたんだ、生の充実も、社会やその文化なしでは考えられないな。
モンモン:うん...生きるってそうゆこと...なのかな、結局、意味があるってそゆこと?。主体的に関わって、生きてるってことに意味が生まれる、んで、その個人の集まりが歴史。そのための問題意識、何かに気づいたら前にはもう戻れない、知らんぷりなんて出来ない、考えに考えて何かを求め始めるのかな、人は、そんなふうに出来てるんだ、結局は!。
2.「Que sommes-nous ? (我々は何者か)」
モンモン: だから、アイデンティティの喪失、なんて言うけど、それって、文化を失うってこと?、「こんなことやっても、意味ないよ」ってのは、何かが、社会の価値観からズレたってこと?。
先生: 難しいな、自分がズレているのか、社会がズレているのか。しかし、その「どうもしっくりと来ない」という感覚は、人に特有のことだろう。そう、いわゆる「自我同一性の拡散」につながるものだな。人として、危機的状況だ。
モンモン: でも、その「何か変だ、おかしい、それホント?」って感覚って、あの「懐疑論」そのものだよね。ああ言えばこう言うって、何だって言えちゃうよって。やっぱり、「批判的思考」って「懐疑論」なの?。
先生: だから、デカルトの「方法的懐疑」なんだ。
モンモン: あー、わかった、17世紀の西洋って、アイデンティティの危機そのものだったんだ、個人どころか、民族としての。それで、「我思う、ゆえに我あり」ってのから始めて、一つひとつ、自分たちの文化の、寄って立つ価値観の、何て言うか、薄いベールみたいなのを、一枚ずつ探ろうとしたんだ、「我々は何者?」って。
先生: なるほど、そうするとそこから、「私は何者?」という問いまで一直線だ。個人主義の誕生だな。
モンモン: うん、だから、宗教と個人主義が、神様と私が両立したんだ、だって、キリスト教って文化の中に深く根ざしてたんでしょ、宗教改革はあったけど。何か変だと思ってた、個人主義なのに神様って...。何、それ?、みたいな...。
先生: まあ、宗教改革が、寝た子を起こしてしまったとも言えるがな。「魔女狩り」が最も吹き荒れたのも17世紀だ。
モンモン: 本当に、人間の精神の危機的状況だったんだね。でも、17世紀は「科学革命」の世紀でもあったよね。
先生: そうだ、17世紀の西欧で起こった出来事はすべて、コインの裏表と言えるのかも知れないな。あのニュートンでさえ、錬金術に没頭していたのだから。ただ、すべてを巻き込んで、次の18世紀にかけての「啓蒙思想」に結実したことは確かだ。
モンモン: うん、人間の「理性」が主人公に躍り出たんだよね、「普遍的」って概念と一緒に。でも、神様から離れることも、「真理」があるはずって思いから逃れることも、なかなか出来なかったんだ、今でもそうだけど。それだけ、自分たちの文化や価値観を否定するって辛いこと、なぜ生きるのかって問いの答えがそこにあるんだから...結局は!?。
3.「Où allons-nous ?(我々はどこへ行くのか)」
モンモン: 「理性」っていう「真理」を見つけたってホント、思ったんだろね、結局、ヨーロッパの人達は、これだ!って。18世紀の産業革命とか、進歩と発展って感じで、ダークサイドもあるけど、独立後のアメリカに来た、トクヴィル?、素晴らしい民主主義の国!って大絶賛だもんね。そりゃ、啓蒙専制君主っていう、何それ?みたいのも出てくるよねー。
先生: まあ、トクヴィルは、民主主義の危険性も指摘はしているのだけどな。だが、宗教戦争に疲れたはずのヨーロッパが、今度は、「国際法」に基づいた戦争を、「理性」的な戦争を遂行していくんだ。そして、次のクライマックスがやって来る、19世紀末から20世紀にかけて。
モンモン: 第一次世界大戦?。
先生: そうだ、欧米列強は、18世紀から19世紀にかけて幾多の戦争を、植民地獲得戦争も含めて、世界中で行っていた。一方、象徴的なのは、19世紀後半の2回のパリ万博だ、エッフェル塔がシンボルの89年、「過去を振り返り20世紀を展望する」がテーマの1900年、まさしく新世紀の到来を告げるにふさわしい、理性の祭典に大喝采だった。
モンモン: えーっ、アフリカ分割とかっ、帝国主義絶頂なのに?。
先生: いやすべては、理性的な政策による行動だ、議会の承認の上での。そして、戦争回避のために理性的に完璧に備えたはずのヨーロッパの体制が、サラエボでの2発の「感情」の銃弾によって、理性的に戦争を始めるんだ、淡々と計画に基づいてな。誰もが、その年のクリスマスまでには終わると思った戦争が...。
モンモン: 結局、4年、続くんだね。
先生: そう、人類史上初めての総力戦だ。その時は、まさか2度目があるとは誰も思っていないから、「欧州大戦」とか、あるいは、希望を込めて「戦争を終わらせる戦争(War to end wars)」と呼ばれていたんだ。
モンモン: そして、戦後のドイツに多額の賠償金を課すんだよね、どっちが勝ったか負けたか分かんないよな結果に。「理性」の出番はそこなのに、大事なとこで、「感情」に押し切られたんだね、結局...。
先生: しかし、アメリカ参戦の理由は「民主主義を守るため」で、モラルというか、理性的「正義」を初めて戦争に持ち込み、大戦中のロシア革命は「共産主義社会の建設」だから、「理性」による理想の仕上げ、イデオロギーの世紀の始まりの鐘でもあったわけだ、国際連盟の設立も含めてだ。ちなみに、20年代のアメリカは禁酒法時代でもあるな。
モンモン: 今から見れば、何かもどかしいね。拘るのはそこじゃないでしょって、国際連盟にはアメリカ、加入しないし、肝心なとこで「理性」、ダメじゃん、って感じ...。
先生: ...で、その時代の微妙な空気を敏感に感じ取ったのが、「失われた世代(Lost Generation)」と呼ばれる、パリ在住アメリカ人を中心とする人達だ。もちろん、ヨーロッパの若者も同様な気分は共有していた。
モンモン: あの、ヘミングウェイ「日はまた昇る」とか?、フィッツジェラルドも有名だね。価値観の崩壊でアイデンティティの危機に陥ってたのかな、結局...。でも今度は、「我思う〜」ってわけにはいかないよね、だって、その「理性」そのものに、すっごい不信感を持ったんだろから。
先生: 同時代の、日本の芥川龍之介が自殺前に「ぼんやりした不安」と記したのも、その世界的な何かを、ニヒリズムのような何かを感じていたのかも知れないな。
モンモン:そして、第二次世界大戦、冷戦、今はテロとの戦い?、いつまで「正しい」を信じ続けるんだろ?。人類全体が、「我々は何者?」への答えを得るのはいつ?、普遍的っていうの、そんな価値観ってあるの、というか、創り上げれる...られるの?。10年で歴史は大きく変わってる、この21世紀も、誰も予想できない結果が待ってるのかな、結局は!?。
4.エピローグとしてのダイアローグ
モンモン: せんせー、やっぱり、「考える」って大切だね、考え始めると、ちょっと面白いかなって、人ってそんなふうに出来てるんだって。でも、考えるために、ある程度の知識がいるよね。
先生: というか、体系化された知識かな、羅列ではなく。しかし、一番大事なのは、やはり、自分の文化認識だ、どのような価値観で世界を世の中を見ているのか意識しているかどうかだな。ただのおしゃべりとの違いだ。
モンモン: うん、それが、生きる意味や創造性にもつながってく、って言うの?、そんな状態を、充実してるって人は感じるってこと?、それが人間性なの?...結局は!。
先生: しかし、こう考えてくると、「Midnight in Paris」が違った角度で見えてくるな、う〜ん、しかし、レイチェル・マクアダムス、なかなか...いや、マリオン・コティヤールも...。
モンモン: せんせー、何言ってんの?、何か新しい議論のテーマ?。
先生: ...いや、ただのおしゃべりだ...。
D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?
Where do we come from? What are we? Where are we going?
(外部リンク:ボストン美術館/ウィキペディア)
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